敬語の形でも、内容は不満
国立国語研究所の井上文子は、家族や赤ちゃんについての敬語を説明する中で、友達の行動を訴える子供の言葉も挙げています。その解説の一文です。
けんちゃん、いけずしはんねん。
子供は、けんちゃんの行動に不満を訴えています。「はる」の形があるからと褒め言葉に訳したら、意味が逆になります。かといって、「はる」を皮肉の意味だと覚えることもできません。敬語の形に気づいたら、続いて、文がどんな行動を述べているのかを読みます。
この解説は2004年が初出で、ウェブでの再公開は2020年です。家族や赤ちゃんについて紹介した調査には1998年の研究が使われています。例を読む手掛かりにしつつ、当時の分布を今の全世代に当てはめないようにします。
会話に三つの席を描く
紙に三つの欄を作ってみてください。話している子供、聞いている人、そして話題になったけんちゃんです。子供が話しかけているのは聞き手ですが、不満の対象はけんちゃんの行動です。この二人を分けると、敬語が誰の行動に付いているのかを追いやすくなります。
辻加代子の2001年の研究は、京都市の中年層女性によるくつろいだ自然談話を扱っています。この記事では、公開された抄録で、第三者を指す「はる」の機能を論じた部分を読みました。
短い文だけで仲がよい、よそよそしいと決めたら、三つの欄の間に、会話にはない線を引いてしまいます。敬語の形を見分けるのは出発点。その言葉が誰に、どんな場で向けられたかは別に残ります。
言い方と、そこでしていること
公開アーカイブには、受付の人が予約確認のために名前を尋ねる場面があります。丁寧な言い方であることと、求める情報が客の名前であることを、一緒に読めます。予約の取り消しに同意するかを尋ねる言葉には変わりません。
次の予約を控えた相談の場面では、担当者が次の客を高めて述べながら、今の客に残りは五分ほどだと伝えます。誰を高めるかと、誰に終了を求めるかが、一文の中でも違います。この二問は「はる」の用例ではなく、人物の役割を分けて読む練習です。
翻訳でも、この順番が役立ちます。まず誰が名前を答え、誰が相談を終えるのかを合わせる。そのあとで文体を選びます。敬語を増やしても、行動する人を取り違えた訳は直りません。
一文で残す読みのメモ
最初の子供の例なら、「けんちゃんの行動を訴えている」と書けば足ります。「けんちゃんを尊敬している」「わざと皮肉を言う」は、情報が増えたときに改めて考える読みです。分かっている不満は訳に残し、分からない心の距離は空欄にしておきます。
参考資料
- 家族や赤ちゃんに尊敬語を使うのは間違った言い方ですか — 国立国語研究所 · 2020-06-25 · 確認日:
- 京都市方言・女性話者の「ハル敬語」: 自然談話資料を用いた事例研究 — 国立国語研究所 学術情報リポジトリ · 2001-10-30 · 確認日:
この記事の変更履歴
- — 抽象的な注意を減らし、子供・聞き手・けんちゃんの役割を具体的にしました。抄録の確認範囲と調査時期を保ち、Codex (AI) が三言語を照合しました。
- — 確認した資料と抄録の範囲を守り、出典の例文、創作例、三言語の訳を照合しました。